案外難しいシンプルなデザイン

シンプルなデザインというものは案外難しいものです。「シンプル」とは「簡単」というわけではなく、無駄を省くということです。必要以上に装飾せず、洗練されたデザインというわけです。言葉で表せばそうなのですが、なにが「無駄」なのかということがとても曖昧です。デザイナーが自分で思う「シンプル」が、はたして正しいのかどうか、デザインの過程では誰もわからないのです。例えば、多彩な機能をボタンひとつで制御できる、という製品であれば、当然ながらボタンはひとつでしょう。UIをシンプルにまとめあげていますから、デザインも当然ながらシンプルになります。ですが機能は多彩なので、そのひとつのボタンの操作は多彩になるはずです。ある特定の機能を引き出すためにひとつのボタンに対してどのような制御をさせるのか、仮に短く二度押しのような「押す回数」がキーになるとすれば、デザインは「連続で押しやすい」ことに主軸をおくべきです。親指で押すのだとしたら、手に馴染みやすいフォルムも大切です。そのように、何事も利用シーンや操作イメージから導き出す必要があります。単純に手に馴染むといっても、どのような大きさ、どのようなフォルムが最適なのか、ということも迷ってしまうでしょう。それもそのはずです。「手の大きさ」などはみんな違うものです。それでは何が正解か、それはデータをとるしかないのです。そのアイテムの利用ユーザー層はどこなのか、年代や性別に偏りはないかどうかを改めて見つめ直します。そしてその属性が明確なのであれば、その属性の「アベレージ」を見極めます。そのようにひとつひとつに「理由」があること。それがシンプルなデザインをするうえで最も大切なことなのです。
「シンプル」こそ一番難しいデザインです。着色や模様など、他の要素でごまかすことができませんし、そのフォルムはもはや言い訳がききません。昨今のデジタルアイテムやPCではシンプルなUIが好まれます。各社が洗練されたデザインを競っています。そのような状況ですから、ユーザーもシンプルであることが当たり前のように感じているのです。ボタンが多かったり、持ちづらいフォルム、操作しづらいUIでは、今では誰からも見向きもされないのです。そのシンプルさの中にもおのおののスペックを最大限に活かすための機能を持っているものです。そのような製品ばかりです。ボタンが多いだけで敬遠されてしまう、UIが複雑なだけで「無駄」と言われてしまう時代なのです。そのような風潮が「トレンド」ではなく「当たり前」になってしまっているので、開発側やプロダクトデザイナーはたまったものではありません。次から次へとシンプルで多機能なアイテムが登場する中で、煩雑なUIを持つ製品は非常識と捉えられてしまうからです。まずは競合を研究すること、ユーザーの利便性を考えること、そしてなによりも自分自身がそのアイテムの「シンプルさ」の理由を説明できることが大切です。ユーザーはその商品をずっと使い続けますが、その「便利さ」の理由を説明することはできないのです。「使いやすい」ということにも「理由」は必ずあります。「なんとなく」ということではどこかに欠陥があるものです。

 
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