トレンドとデザイン

トレンドという言葉があります。「トレンド」とは流行りといってもいいでしょう。「流行り」と聞くと浮ついた言葉に聞こえてしまうかもしれませんが、実際はそうではありません。流行りとはその時代にそうなるべくしてポピュラーになったスタイルです。それは意図的な広告やメディアで作られた、と思われるかもしれませんが、広告やメディアで露出したとしても人の心に刺さらなければ意味がありません。露出の費用が回収できなければビジネスとして成り立たないのです。ですから、「作られた流行」だとしてもそこにはそうなるための理由があるのです。スタイルやデザインは時代と共に変遷します。ファッションなどは一定のサイクルでスタイルの移り変わりを繰り返します。同じスタイルが繰り返されるわけではなく、周期毎にブラッシュアップを繰り返しながら進化していくのです。それぞれの時代で広く認知される流行は、その時期毎の世相を捉えたものになります。
「デザイン」においても、同系統のデザイン群で同じような方向を向くことになります。それはあるひとつの強力なヒットデザインから派生することもあれば、意図せず自然に同じベクトルを向くこともあります。自然に発生したとしても、巨大なヒットデザインに半ば強引にそのベクトルを決定付けられたとしても、一旦そのようなベクトルが定まるとそのトーンから抜け出すことがなかなか難しいものになります。人の自然な反応として、見馴れたもの以外は馴染むまで「良い印象を持てない」ということがあります。それが「トレンド」の本質でもあるのです。何か一つの大きなムーブメントに毒された人たちは、その系統に属さないものにあまり好印象を持てないのです。好印象を持てないから「買わない」。買われなければ事業として成り立たないのでそのデザインのものはリリースできないのです。「トレンド」というものはときに排他的です。その系統に属さないデザインやアイテムをはじき出す力を持っているのです。そうなると、ビジネス的に成立させる以上はすでに大勢が定まったトレンドにのるしか手段がないのです。その「流れ」から外れることは大きな勇気を必要とすることでしょう。「トレンド」とは、とても非情なものでもあります。ビジネスの土壌を作りだすものではあるのですが、一度出来てしまった流れには大人しく従うしかないということでもあります。
ですが、「新しいトレンドを作りだす」という試みは現在では個人レベルでも可能となっています。それは「インターネット」の発達に代表される情報網の整備により、大きな資本を持たない小規模な企業、そして個人レベルでも情報を世界に発信することができるようになったからです。誰でも自分の表現を世の中に伝えることができる、ということは時代に新たな局面をもたらしました。同じ嗜好を持つ少数の人たちがネットワークを作れるようになったのです。そのネットワーク同士もまた連結し、作られたトレンドではない、本当の好みを存分に楽しめるような環境が整ってきているのです。そうなると、「大きなトレンド」が意味をなさなくなります。小規模から中規模の好みの群れが多数発生し、それぞれがすきなコミュニティへ参加することができるようになりました。デザインやスタイルもまた、それぞれ適応するコミュニティに対しての訴求が可能なのです。

 
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